命がけで撮ったのに・・・





「やべぇ。あれ、やべぇょ!」
空中に浮いた私の耳に、学生達の言葉が飛び込んでいた。
「やべぇ」と言われているのは、勿論、私のこと。
私は熱気球の遙か下に2本のザイルで吊され、熱気球にはスカイダイバー2名が乗っている。

熱気球からパラシュートを背負って飛び出す二人のダイバーを斜め下から撮影したいと考えたら、気球にぶら下がって撮るしかないという結論になった。
詳しいことは文章で説明するより、写真を見て頂ければ一目瞭然なので省略。
スカイダイビングを行うには高さが必要だ。
数百メートルでは、パラシュートが開く前に墜落してしまう。
よって、私を吊った熱気球は、どんどん高度を上げ厚い雲を突き抜けて上昇して行く。
足の下には雲海が広がり、僅かな雲の切れ間から住宅が点になって見える。
上昇中は揺れが激しい。私を吊り下げたロープがブンブン唸る。

「怖くないのかぁ〜」数分後には飛び降りるダイバーの一人が声を掛けてきた。
「あんたには言われたくねぇよ」ロープにしがみつきながら言い返す。
2000mを越えたあたりで上昇速度が遅くなり、揺れもおさまってくる。

「行きまーす」の声が聞こえた。
カメラを構え、少し待つとゴンドラから二人が飛び出した。
熱気球が入るレイアウトで、数カットを切った瞬間、ヒュンと音を立てて私のすぐ目の前をもの凄い速度で落ちていった。
長い間止めていた呼吸を補うように深く息を吸い込み、カメラのモニターで確認する。青空の中に浮かぶ気球と、ダイバーがしっかりと写っている。
「よっしゃぁ!」と歓喜の声を上げながら、拡大表示してみると、ダイバーの足が曲がっている。
「ガニマタ!」モデルが最悪だ。オヤジ体型の人形が気球にぶら下がっているようにしか見えない。
勿論、緊張感も迫力も何も感じられない。

私は2000mから急降下する気球に吊られたまま、一人反省会を始める。
モデルは論外として、吊ったロープが長すぎた。
距離がありすぎて迫力が出ない。半分で良かった。
頭上の気球を見上げて、丁度あの辺りだと見当をつける。
急降下している気球が頭上でバタバタ音を立てて変形している。
構図的に考えると、開口部(ゴンドラの上にある風船の穴)の縁に3m程のロープで吊って、16mmの超広角レンズで撮ればかなり迫力のある写真が撮れるはず。
ロープじゃだめだ。ワイヤにしないと、バーナーに焼き切られて落ちてしまう。
気球がどちらを向くか解らないので、ストロボも必要だ。

そんなことを考えているうちに、地上100m程度まで降りてきた。
熱気球を操縦する友人は、着陸地を探してさらに高度を下げてくる。暴風林を足が触れそうな高さで、飛び越えて畑に足がついた。
そのまま、体を沈ませてから体を伸ばすと3m程ジャンプし、ひとまたぎで6mも飛んで行く。
まるで、月面を走るアームストロング船長のようだ!
単純に楽しい。

ホップステップジャンプの3歩で20mを飛んで、道路上に着地。
素早くロープを外し、気球は私を地上に残して飛んで行った。
気球のよく飛ぶエリアなのだが、人が吊られているのが珍しいらしく、人が集まってきた。
「何でぶら下がってんだ?」と聞かれたので、飛んで行く気球のゴンドラを指さして、「あのパイロットが僕を嫌いで、同じ箱には乗っけてくれなかったんです」と冗談を返したら、「そうなんだぁ。気球の世界も大変なんだな」だって。
まさか本気にしてませんよね。

ダイバーを回収し、気球を畳んで一段落。
一仕事(一遊び?)の後は、いつものメンバーで楽しくバーベキュー。
話題は、誰が今日一番の「おバカさん」だったかの言い合い。

ちなみに、今回の撮影の状況を身内の関係者は、「ハイジブランコ」と呼んでいるようです。
(ピンと来ない方は、You Tubeでアニメ、アルプスの少女ハイジのオープニングを見てください。) 今回の反省を踏まえて、次回は迫力のある写真をお見せしたいと思います。